売掛債権保証と掛け払い決済代行の違いとは?
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目次
はじめに
法人取引において、売掛金の回収リスクは避けて通れない課題です。取引先の多様化や新規市場への参入に伴い、慎重なリスク管理が求められています。
近年、リスク管理のソリューションとして「売掛債権保証」と「掛け払い決済代行」が注目されていますが、両サービスは効果と業務フローへの影響が根本的に異なります。
本コラムでは、両サービスの違いを分かりやすく解説します。
売掛債権保証は「取引を維持しながらリスクのみ軽減」
サービス概要
売掛債権保証は、既存の取引関係や業務フローを一切変更せず、売掛金の回収不能リスクのみを保険でカバーするサービスです。「取引先との関係維持を重視したリスクヘッジ」と捉えるのが適切でしょう。
仕組みとプロセス
- 保険契約の締結:保険会社と売掛保証契約を結ぶ
- 取引先の与信審査:保険対象とする取引先の審査を実施
- 通常の取引継続:従来通りの請求・回収業務を実施
- 事故発生の申請:取引先の倒産・事故情報を保険会社に申請
- 保険金の支払い:取引先の倒産・支払い不能時に保険金を受領
主な特徴
既存関係の維持
- 取引先との直接的な関係性(支払い方法、支払いサイクル)は全く変わらない
- 契約関係、請求関係に保険会社の介入は一切ない
- 長年築いた信頼関係を損なうリスクがない
業務フローの継続
- 請求書発行は従来通り自社で実施
- 入金管理や督促業務も自社で継続
倒産リスクの回避
- 取引先が倒産・支払い不能になった場合のみ保険が適用
- 支払い遅延やトラブルに起因する支払い拒否などは対象外
- 保険金は損失額の80~100%をカバー(保険個別契約により異なる)
コスト構造
- 月額保険料:保険を掛けたい取引額の1~3%程度
- 初期費用:基本的にかからない
会計計上の方法
売掛保証は経理会計の基本構造を変更しません。
- 売掛金計上:取引先に対して通常通り計上
- 保険料処理:販売費及び一般管理費で定期的に計上
- 保険金受取:雑収入または特別利益として計上
- 税務上の扱い:保険料は損金算入、保険金は益金算入
掛け払い決済代行は「請求から回収までの決済全体アウトソース」
サービス概要
掛け払い決済代行は、決済代行会社が売主と買主の間に介入し、請求から回収まで決済業務全体を代行するサービスです。「決済業務のアウトソーシング」として機能します。
仕組みとプロセス
- 代行会社との契約:決済代行サービスの利用契約を締結
- 取引先の登録:代行会社が取引先の与信審査を実施
- 決済業務のアウトソース:請求から回収まで全てを代行会社が実施
- 確実な代金回収:買主の支払い有無に関わらず代金を受領
主な特徴
決済業務の完全代行
- 請求書の作成・発行・送付を代行
- 入金管理や督促業務も代行会社が実施
未回収リスクの完全回避
- 決済代行会社が買主に対する債権者となる
- 取引先の支払い有無、遅延有無に関わらず売主への支払いが保証
業務効率化の実現
- 請求・回収業務から完全に解放
- 人的リソースを営業活動など他の業務に集中可能
コスト構造
- 決済手数料:売上高の1~3%程度
- 初期費用/月額費用:0~数万円(多くの場合は数千円程度)
会計計上の方法
掛け払い決済代行では、会計の方法が大きく変わります。
- 売掛金の相手先:決済代行会社が債権者となる
- 決済手数料:売上高から控除または販売費で処理
- リスク管理:貸し倒れ引当金の設定が不要となる
両サービスの比較:どちらを選ぶべきか
比較表
判断要素 | 売掛債権保証 | 掛け払い決済代行 |
---|---|---|
取引関係 | 既存関係を完全維持 | 代行会社が介入 |
業務負荷 | 従来業務を継続 | 請求・回収業務から解放 |
コスト | 固定の保険料 | 売上連動の手数料 |
リスク移転 | 倒産・支払不能時のみ | 全ての回収リスク |
キャッシュフロー | 事故発生後15~180日間程度 | 改善の可能性 |
売掛債権保証が適している企業・場面
こんな企業におすすめ:
- 長期的で直接的な取引関係を重視する企業
- 既存の業務プロセスを維持したい企業
- 取引先の倒産リスクを回避したい
具体的なケース:
- 基幹取引先との関係性が事業の根幹
- 既存の与信管理に保険会社の与信情報を加えたい
- 相手方の倒産に備えつつ大型取引を実施したい
注意点:
- 保険設計:取引先の信用度に応じた保険金額・免責額の設定
- 保険金支払:事故申請・保険金支払条件の複雑さと、支払いまで時間がかかる
掛け払い決済代行が適している企業・場面
こんな企業におすすめ:
- 業務効率化を積極的に推進したい企業
- 新規取引先の開拓を重視する企業
- 人的リソースを営業活動に集中したい企業
具体的なケース:
- 新規事業や新市場への参入を検討
- 中小企業との取引拡大を計画
- 請求・回収業務の人的コストが課題
注意点:
- 取引先への説明:決済フロー変更に対する取引先の理解獲得
- 連携設計:既存の会計・販売管理体制との連携設計
まとめ
売掛債権保証と掛け払い決済代行は、どちらも売掛金リスクを軽減する有効なソリューションですが、その性格と効果は大きく異なります。
売掛債権保証は「取引関係を維持しながら、安価にリスクのみを軽減したい」企業に適しており、掛け払い決済代行は「業務効率化と確実な資金回収を通じて、成長戦略を加速させたい」企業に適しています。